市川海老蔵 JAPAN THEATER [美術館 ARTNEWS アートニューズ]
市川海老蔵 JAPAN THEATER
Advanced
verbal
魔術師、海老蔵
撮影 すべて 浦 典子
平成27年(2015年)10月23日(金)、京都四條南座において、市川海老蔵の「JAPAN THEATER」が初日の幕を開けた。
先週、10月17日、18日にシンガポールのマリーナ・ベイ・サンズ グランドシアター((Marina Bay Sands)にて、JAPAN THEATERの公演が行われ、現地在住の日本人のみならずシンガポール人を魅了し、大成功であったとの情報を弊社シンガポールのアシスタントと現地メディアの友人から受けていた。
口上(こうじょう)の後、歌舞伎十八番の内 嫐(うわなり)と創作舞踊 三升曲輪傘売(みますくるわのかさうり)が上演され、拍手喝采を浴びていたという。
まさに“Advanced verbal ”、言語の壁を超えた演技だ。
マリーナ・ベイ・サンズは、空中プールがあり、今やシンガポールを象徴する建築物の一つになっている。 このインフィニティプールと呼ばれるプールは地上から150メートルにあり、「世界一高い場所にあるプール」と謳っている。
また、このプールはホテル宿泊者しか泊まれない為、ホテルのセールスポイントになっているあこがれの存在だ。
筆者が訪れた時は、日本人の広報担当者がおり、日本マーケットにも目を向けた「至れり尽くせり」のゴージャスなホテルだ。
海老蔵は、このホテルに宿泊していたとの情報を得ている。
☆マリーナ・ベイ・サンズ
このマリーナ・ベイ・サンズの設計は、イスラエル系カナダ人建築家のモシェ・サフディ(Moshe Safdie)が行い2010年7月23日にオープンした。
この建築物の成功により、モシェ・サフディはその名を世界に轟かせることになり、その後、モシェ・サフディへの発注が後を絶たず、一躍、売れっ子建築家になった。
☆サフディ・アーキテクト(Safdie Architects)
マリーナ・ベイ・サンズ グランドシアターで行われたミュージカル、「コーラスライン」(A Chorus Line Sands Theater)については、以下で記しているので参照されたし。
http://artnews.blog.so-net.ne.jp/2012-05-25
今や、マリーナ・ベイ・サンズ グランドシアターは、表現者であれば一度は舞台に立ってみたいと思われる存在になった。
一人当たりのGDP (国内総生産)というのは、GDPを人口で割ったもので、為替変動などいろいろな条件を加味して論じないといけないが、単純にいえば、国民一人当たり、どれくらい稼いでいるかの目安だ。
経済大国、日本だから上の方でしょと思いたいが、この一人当たりのGDPは、日本は2014年には、US$36,331.74で世界27位という残念な位置にいる。
片や、アジアの小国、シンガポールは、US$56,319.34で世界9位。アジアではNo.1だ。
シンガポール人一人当たりは、日本の約1.5倍もお金持ちということになる。
少ない人数でガッチリ稼いでいるのだ。
シンガポールは、東京都とほぼ同等の面積で経済規模としては神奈川県とほぼ同じだが、東西貿易の拠点となっている。
しかも、富裕世帯の割合が世界で1位の国なのだ。
国土の狭い国で、資源に乏しいとわかっているからこそ、昨今「ヒューマンリソース」こそ宝と教育や文化にも力を入れている。一党独裁だが、市民生活は、まあまあうまく行き、民主主義国家である。
「ウクライナの至宝展 スキタイ黄金美術の煌めき」で記しているが、後に森美術館で開かれたアンディー・ウォーフォール展は、マリーナ・ベイ・サンズのアートサイエンス美術館からキックオフした展覧会だ。
http://artnews.blog.so-net.ne.jp/2012-11-19
なぜ長々とシンガポールのことを述べたかというと、シンガポールは経済的に我々日本人を追い抜いて、次は文化を発信して行こうとしており、当然、シンガポールには、質の高い文化が寄り集まって来ているということだ。
そんな中、海老蔵のこのシンガポールにおける成功は、ただ単に東洋の一都市で成功を収めたのとはわけが違うということを認識すべきだろう。
当然、マリーナ・ベイ・サンズからの招聘もあったであろうが、この「JAPAN THEATER」を海老蔵が行なったことが、日本の伝統文化を世界に発信する絶好の機会であるといえよう。
それを実行し、成功を収めた海老蔵の戦略には、いい意味で「あっぱれ」だ。
日本固有の芸能が生まれた時代を今こそ振り返り、見直してみたいとの海老蔵の思いから「JAPAN THEATER」の構想が始まったという。
海老蔵が日本の伝統芸能を紐解き、紡ぎ出したいと願ったのが、「JAPAN THEATER」なのだ。
その演目が、いよいよ、日本最古の劇場で、ミュージアムでもある南座にやって来た。
口上を海老蔵が述べた後、演目についてわかりやすく解説が海老蔵によって語られた。
☆『正札附根元草摺』 (しょうふだつきこんげんくさずり)
正札附とは、値引きなしの正しい値段札がついている、つまり一級品であること。 根元は本家を示しており、 数ある草摺引物の中で、本曲こそが正統な代表曲だ、という意味だ。
草摺とは、鎧の下の方に下半身を守るためついている数枚の板のこと。
野山で戦をするとき草に引っかかるため、「草摺」と呼ばれる。
力のあるふたりの登場人物が、鎧の「草摺」それを持って引っ張りあう、動きのある踊りで典型的な荒事舞踊。
1814年(文化11)正月江戸森田座初演。
源頼朝が行った富士の巻狩りの際に、曾我祐成と曾我時致の兄弟が父親の仇である工藤祐経を討った実際の事件だ。後に『曽我物語』としてまとめられ、江戸時代になると能・浄瑠璃・歌舞伎・浮世絵などの題材に取り上げられ、民衆の人気を得た。赤穂浪士の討ち入りと伊賀越えの仇討ちに並ぶ、日本三大仇討ちの一つである。
工藤左衛門祐経に父を討たれた曽我五郎時致(ときむね)は、血気盛んな若者に成長し、父の仇を討とうと鎧を手にして工藤の館へ駆け出そうとする。
これを止めたのは名うての大力の持ち主である小林朝比奈。
朝比奈は、五郎と鎧の草摺を引き合い、その行く手を阻もうとする。朝比奈が「悪身(わるみ)」と呼ばれる男姿で女の振りを滑稽に見せるのが見どころのひとつだ。
鎧などを引き合って力を自慢する「引き合い事」という荒事の演技を取り入れた華やかな舞踊。
☆参考
浮世絵師、歌川国芳は以下のように描いている。
曾我五郎時致 歌川国芳画
曾我兄弟 歌川国芳画
☆創作舞踊 『迦具土之舞』
(かぐつちのまい)
古事記をテーマに、須佐之男命(すさのおのみこと)が火の神・迦具土の力を借り、八岐大蛇(やまたのおろち)を退治する創作舞踊だ。アクロバティックな迫力ある舞には、思わず腰を上げてしまう人も多かった。
☆半能(はんのう) 『船弁慶』 (ふなべんけい)
半能とは、能楽において一曲の能を後場に焦点をあて、前場を大幅に略して演じる形態をいう。
「船弁慶」は、「平家物語」、「吾妻鏡」などに取材した能楽作品。作者は観世小次郎信光と比定されている。源義経、武蔵坊弁慶、平知盛が主たる登場人物。
半能のため、静御前は登場しない。平知盛の霊が海上で義経主従を悩ます。
☆参考
月岡芳年は、以下のように描いている。
『大物海上月』(月岡芳年『月百姿』
『大物之浦ニ霊平知盛海上に出現之図』(月岡芳年『新形三十六怪撰』
☆新作舞踊 『三升曲輪傘売』 (みますくるわのかさうり)
シンガポールで拍手喝采を浴びた新作舞踊 『三升曲輪傘売』 (みますくるわのかさうり)がここ南座で披露された。
傘売り実は石川五右衛門を海老蔵が、手先も鮮やかに魔術師のごとく、次から次へと傘を捻り出し、会場からは、「ワー」という歓声が何度も聞かれた。色彩も鮮やかで華やかな演目には圧倒される。
この演目にあたり、専門の手品師に教えを請い、何度も研鑽を重ねたと海老蔵の番頭さんは筆者に教えてくれた。
カーテンコールに何度も応じてくれ、観客は大満足だ。
「華」があることの大切さを教えてくれるような舞台であった。
シンガポール公演の成功でさらに自信を深めたであろう海老蔵。
さらなる飛躍を誰もが期待する。
出演は市川海老蔵、片岡市蔵、市川九團次、大谷廣松で、半能『船弁慶』では、観世流シテ方の観世銕之丞、片山九郎右衛門が特別参加。
役者のついつい目を奪われがちだが、筆者が感心したのは、邦楽出演者だ。
特に大鼓、小鼓のかたのたたづまい。優雅に合わせた所作は、それはそれは優美で、伝統に基づく奥深さを感じさせていた。
今年の「JAPAN THEATER」は、南座が締めくくり。昨年に引き続き、南座では、4日間5公演が行われる。
ぜひ、お見逃しなく。
☆演目
舞 踊 『正札附根元草摺』 (しょうふだつきこんげんくさずり)
創
作 舞 踊 『迦具土之舞』 (かぐつちのまい)
半 能 『船弁慶』 (ふなべんけい)
新
作 舞 踊 『三升曲輪傘売』 (みますくるわのかさうり)
10月24日(土) 14:00の部 17:00の部
〇 貸切
10月25日(日)
- 〇
10月26日(月)
〇
【料金(税込)】
1等席:9,000円
2等席:5,000円
3等席:3,000円
特別席:11,000円
I really enjoy the graphics оf thе game.
by Martin (2023-04-12 04:13)