平櫛田中展 [美術館 ARTNEWS アートニューズ]
平櫛田中展
《幼児狗張子》 明治44(1911)年 井原市立田中美術館
日本近代彫刻史に大きな足跡を残した彫刻家・平櫛田中(ひらくし(又はひらぐし)でんちゅう 1872-1979)の芸術を、彼の代表作を集めた展覧会が三重県立美術館で開催中である。
三重県立美術館は、すばらしい企画展を開催することが多く、いぶし銀のような美術館なので、要チェックである。
例えば2012年に開催した展覧会は以下のとおりで、筆者も以下で紹介しているので、参照されたし。
「蕭白ショック!!曾我蕭白と京の画家たち」
http://artnews.blog.so-net.ne.jp/2012-07-06
「KATAGAMI Style 世界が恋した日本のデザイン」
http://artnews.blog.so-net.ne.jp/2012-08-02
平櫛田中(1872~1979)は、満107歳の長寿を全うした彫刻家としても広く知られている。
平櫛田中は、岡山県後 月郡(現・井原市)に生まれた。
10歳で広島県沼隈郡(現・福山市)の平櫛家に養子に入り、平櫛姓を名のる。
平櫛田中は17歳の頃から造形への関心を深め、大阪や奈良での修業を経て明治30(1897)年に上京、重要文化財、「老猿」の高村光雲(1852~1934)や光雲門下の米原雲海(1869~1925)らから指導を受ける。
また、明治末期から大正初期にかけて、東京藝大の基礎となる東京美術学校を創立した岡倉天心に師事した。
《姉ごころ》 明治40(1907)年 東京国立近代美術館
明治期を代表する美術思想家岡倉天心(1863~1913)は平櫛田中にとって大きな存在で、その教えは平櫛田中終生の指針であった。
平櫛田中は1944年(昭和19年)、東京美術学校(現・東京藝術大学)の教授に招聘され、第二次世界大戦後も教壇に立つ。
東京藝大構内の六角堂に平櫛田中の手による「岡倉天心像」が安置されており、天心を敬愛していた平櫛田中は藝大勤務時代には登校のたびに、この自作の像に最敬礼していたというエピソードも持つ。
岡倉天心については、現在名古屋ボストン美術館で開催中の「ボストン美術館日本美術の至宝」展で紹介しているので参照されたし。
http://artnews.blog.so-net.ne.jp/2012-05-28-1
この「ボストン美術館日本美術の至宝」展で「岡倉覚三像」(覚三は、天心の本名)として展示されているのが、平櫛田中の彫刻作品で、ボストン美術館所蔵のものである。
すなわち、平櫛田中の作品は、あのボストン美術館に所蔵されているのだ。
平櫛田中のことを知らない人も、こう説明すれば、その国際的評価が理解できるに違いない。
また、この「ボストン美術館日本美術の至宝」展の目玉ともいうべき作品は、曽我蕭白の雲龍図であろう。
この雲龍図は、展覧会図録の表紙にもなっているくらいだ。
なぜ、三重県立美術館の企画が、すばらしいかと筆者がいうのか。
「蕭白ショック!!曾我蕭白と京の画家たち」が、三重県立美術館で開かれていた時には、曾我蕭白という絵師に焦点を合わせた展覧会により、曾我蕭白が理解できた。
このようにタイムリーに他の美術館で行なっている展覧会と三重県立美術館で開催中の展覧会を関連付けながら立体的に鑑賞できるからだ。
さて、西山禾山と岡倉天心の教えを糧に自己の思想を構築し、西洋塑造の研究も行った平櫛田中は大正期の再興日本美術院展に深い精神性漂う作品を発表する。
《烏有先生》 大正8(1919)年 東京国立博物館蔵
その後、昭和期に入ると、平櫛田中は古彫刻の彩色技法や寄木造を研究して写実表現を追求した作品を制作するようになる。
20年の歳月を費やした畢生の大作《鏡獅子》(1958年)は、そうした彩色像の集大成といえるであろう。
《試作鏡獅子》昭和14(1939)年井原市立田中美術館
仏像、肖像、身辺彫刻なども含む平櫛田中の作品は多岐に渡り、制作技法も様々で、その試みの様子がこのような代表作を集めた展覧会によりよくわかる。
また、長年にわたる制作活動は、西洋的造形と前近代的造形の間で揺れ動いている。
そうした活動の中で生まれた多くの作品は、日本近代彫刻史の展開そのものでもあったといえよう。
《原翁間日》昭和15(1940)年須坂市立美術館蔵
この展覧会は、写実表現、木彫と塑造との関係、彩色仕上げ、複数制作など平櫛作品が提起する問題を考察し、代表作や関連資料約80点によって平櫛田中に迫ろうとするもの。
《鶴しょう》昭和17(1942)年東京国立近代美術館
筆者が、平櫛田中の作品で特に愛しているもの。「幼児狗張子」と「愛犬」である。
《幼児狗張子》 明治44(1911)年 井原市立田中美術館
図録によると、「幼児狗張子」のモデルは、長男俊郎である。
ふっくらした頬、何ともかわいらしい生き生きとしたその表情は、見る者を惹きつける。
思わず抱き上げたくなるくらいだ。
この2点は、内箱の蓋裏に書かれた「大正元年先帝御遺物之章」とあり、明治天皇の御遺物であったことがわかる。
何だか明治天皇が身近に感じられ、その審査眼に大いに共鳴した。
「蕭白ショック!!曾我蕭白と京の画家たち」の記事でも述べたが、「ボストン美術館日本美術の至宝」展とこの展覧会を両方鑑賞することをおすすめする。
ぜひ、お見逃しなく。
《西山逍遥》昭和32(1957)年
会期
2012年10月30日(火)―12月9日(日)
観覧料
一般900(700)円/高大生700(500)円/小中生400(300)円
休館日
毎週月曜日
主催
三重県立美術館、平櫛田中展実行委員会、朝日新聞社
助成
公益財団法人岡田文化財団、公益財団法人三重県立美術館協力会
ギャラリートーク
担当学芸員が展示室で展示作品について解説する。
日時: 12月1日(土) 午後2時から参加無料、ただし展覧会観覧券が必要。
☆読者プレゼント
10組20名様にご招待券 プレゼント
あて先 : loewy@jg8.so-net.ne.jp に 件名:展覧会名と会場名 本文:ご住所、お名前 をお書きの上どしどしご応募下さい。 発送をもって当選と代えさせていただきます。
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