日本・オーストリア外交樹立150周年記念 ウィーン・モダン クリムト、シーレ 世紀末への道 Vienna on the Path to Modernism The 150th Anniversary of the Establishment of Diplomatic Relations between Japan and Austria [美術館 ARTNEWS アートニューズ]
日本・オーストリア外交樹立150周年記念
ウィーン・モダン クリムト、シーレ 世紀末への道
Vienna on the Path to Modernism
The 150th Anniversary of the Establishment of Diplomatic Relations between Japan and Austria
グスタフ・クリムト《エミーリエ・フレーゲの肖像》1902年 油彩/カンヴァス 178 x 80 cm ウィーン・ミュージアム蔵 Wien Museum / Foto Peter Kainz
現在オーストリアの首都、ウィーンの「世紀末文化」を「近代化(モダニズム)への過程」という視点から紐解く新しい試みの展覧会が、国立新美術館において好評開催中だ。
今日では「世紀末芸術」と呼ばれるように19世紀末から20世紀初頭にかけて、ウィーンでは、絵画や建築、工芸、デザイン、ファッションなど、それぞれの領域を超えて、新しい芸術を求める動きが盛んになり、ウィーン独自の装飾的で煌びやかな文化が開花していた。
画家グスタフ・クリムト(1862-1918)やエゴン・シーレ(1890-1918)、建築家オットー・ヴァーグナー(1841-1918)、ヨーゼフ・ホフマン(1870-1956)、アドルフ・ロース(1870-1933)など各界を代表する芸術家たちが登場し、ウィーンの文化は黄金期を迎えていた。
それは美術の分野のみならず、音楽や精神医学など多岐にわたるものであった。
この展覧会では、18世紀の女帝マリア・テレジアの時代の啓蒙思想がビーダーマイアー時代に発展し、ウィーンのモダニズム文化の萌芽となって19世紀末の豪華絢爛な芸術運動へとつながっていった軌跡をたどる。
2019年の今年は、日本とオーストリアの外交樹立150周年を迎える。
これを記念にするにふさわしい展覧会だ。
ヨーロッパ有数の博物館として知られ、100万点におよぶ所蔵品でウィーンの歴史や文化を今に伝えるウィーン・ミュージアム。
この改修工事に伴い、同館の主要作品をまとめて公開する展覧会が実現したのも、日本とオーストリアの外交樹立150周年として実にいいタイミングだ。
出展作品は、個人所蔵の作品をあわせて東京展で約400点。
絵画や工芸はもちろん、建築、デザイン、インテリア、ファッション、グラフィックデザインなど、当時の写真や資料、この展覧会のために特別に制作されたウィーン市の都市変遷映像など、“芸術の都”ウィーンで育まれた芸術世界を網羅的に紹介する展示内容もこの展覧会の特徴だ。
☆ウィーン ミュージアム(WIEN MUSEUM)
クリムト47点、シーレ22点、ココシュカ17点。
ウィーン世紀末の巨匠の傑作が集結。
クリムトが最愛の女性を描いた≪エミーリエ・フレーゲの肖像≫をはじめとする油彩画に加え、素描、ポスターなどのグラフィックを通して、モダニズムの黄金時代を築いた作家たちの作品世界に深く迫っている。
また、クリムトに影響を与えた画家ハンス・マカルト(1840-1884)による1879年の皇帝フランツ・ヨーゼフと皇后エリーザベトの銀婚式記念パレードの絵画、作曲家アルノルト・シェーンベルク(1874-1951)が描いた絵画も見どころのひとつだ。
グスタフ・クリムト《パラス・アテナ》1898年 油彩/カンヴァス 75 x 75 cm ウィーン・ミュージアム蔵
Wien Museum / Foto Peter Kainz
グスタフ・クリムト《第1回ウィーン分離派展ポスター》(検閲後) 1898年 カラーリトグラフ 97 x 70 cm
ウィーン・ミュージアム蔵 Wien Museum / Foto Peter Kainz
エゴン・シーレ《ひまわり》1909-10年 油彩/カンヴァス 149.5 x 30 cm ウィーン・ミュージアム蔵
Wien Museum / Foto Peter Kainz
エゴン・シーレ《自画像》1911年 油彩/板 27.5 x 34 cm ウィーン・ミュージアム蔵
Wien Museum / Foto Peter Kainz
マクシミリアン・クルツヴァイル《黄色いドレスの女性(画家の妻)》1899年 油彩/合板 171.5 x 171.5 cm
ウィーン・ミュージアム蔵 Wien Museum / Foto Peter Kainz
グスタフ・クリムト《愛》(『アレゴリー:新連作』のための原画 No.46)1895年 油彩/カンヴァス 62.5 x 46.5 cm ウィーン・ミュージアム蔵
Wien Museum / Foto Peter Kainz
ハンス・マカルト《ドーラ・フルニエ=ガビロン》1879-80年頃 油彩/板 145 x 93.5 cm ウィーン・ミュージアム蔵 Wien Museum / Foto Peter Kainz
東京都美術館で行われていた「クリムト展 ウィーンと日本 1900」については以下に記しているので参照されたし。
☆クリムト展 ウィーンと日本 1900 Gustav Klimt: Vienna Japan 1900
https://artnews.blog.so-net.ne.jp/2019-07-02
☆構成
第1章:啓蒙主義時代のウィーン
女帝マリア・テレジアとその息子、皇帝ヨーゼフ2世が統治した1740年代から90年代のハプスブルク帝国の首都ウィーンでは、啓蒙主義に基づいた社会の変革が行われた。
理性や合理主義に基づき、社会の革新を目指す啓蒙主義の思想がウィーンに入ってきたのは、他のヨーロッパ諸国に比べ早くなかったが、この思想の熱烈な支持者であったヨーゼフ2世は、宗教の容認、死刑や農奴制の廃止、病院や孤児院の建設など、行政や法律、経済、教育においてさまざまな改革を実行。
ウィーンは、自由な精神をもつ知識人たちを魅了し、彼らの交流の場となることで、ヨーロッパ文化の中心地へと変貌を遂げていった。
マルティン・ファン・メイテンス《マリア・テレジア(額の装飾画:幼いヨーゼフ2世)》1744年 油彩/カンヴァス 216.2 x 162.5 cm ウィーン・ミュージアム蔵 Wien Museum / Foto Peter Kainz
第2章:ビーダーマイアー時代のウィーン
ナポレオン戦争終結後の1814年には、各国の指導者たちが集まったウィーン会議が開催され、ヨーロッパの地図が再編された。
以降、1848年に革命が勃発するまでの期間は、「ビーダーマイアー」(独: Biedermeier)と呼ばれる。
ビーダーマイアーとは、ビーダーマンとブンメルマイアーの合成語で、「愚直な人」という意味だ。
ドイツの風刺週刊誌『フリーゲンデ・ブレッター』 (Fliegende Blatter) の中に登場する、架空の小学校教員ゴットリープ・ビーダーマイアーに由来する。
彼は、家庭の団欒や身の回りの食器や家具などに関心を向け、簡素で心地よいものを好み、華美な家具や服装を嫌った。
当初、家具の様式を指す言葉であったが、やがてこの時代の生活様式全般と精神構造を表すようになる。
また、身の回りの小世界を描くロココ趣味的なウィーンの画家たちの作品を指して「ビーダーマイアー様式」と呼ぶようにもなった。
急激な都市化と同時に政治的抑圧が強かったこの時代、それに対する反動として、人々の関心は「私的な領域」へ向く。
あらゆる著作物に対し検閲が実施されるという抑圧された環境の中、画家たちがテーマとして選んだのは、日常生活やのどかで親しみやすい都市や農村の風景画であった。
世紀末芸術が花開いた1900年頃のウィーンでは、ビーダーマイアーが文化の着想源として参照された。
日常生活に実用的な美を見出したビーダーマイアーは、後にモダニズムのモデルとなった。
ビーダーマイアーに関しては、奇しくも「国立新美術館開館5周年 リヒテンシュタイン 華麗なる侯爵家の秘宝」の筆者の記事を参照されたし。
☆国立新美術館開館5周年 リヒテンシュタイン 華麗なる侯爵家の秘宝
https://artnews.blog.so-net.ne.jp/2012-12-06
この記事には、「ビーダーマイヤー」と記しているが、今回の展覧会では、「ビーダーマイアー」と統一して記されているので、こちらを採用して記す。
フリードリヒ・フォン・アメリング《3つの最も嬉しいもの》1838年 油彩/カンヴァス 80 x 80 cm
ウィーン・ミュージアム蔵 Wien Museum / Foto Peter Kainz
第3章:リンク通りとウィーン
皇帝フランツ・ヨーゼフ1世の治世(1848年-1916年)に、ウィーンは帝国の近代的首都へと変貌を遂げる。
人口は、50万人から220万人にまで増加。
近代的な大都市への変貌は、1857年に皇帝が都市を取り囲む城壁の取り壊しを命じ、新しいウィーンの大動脈となる、「リンク通り(リンクシュトラーセ)」を開通させたことに始まる。
沿道には帝国の要となる建築物が次々と建設された。
リンク通りは19世紀のウィーンの象徴(シンボル)であるといえよう。
1879年には画家ハンス・マカルト演出による皇帝夫妻の銀婚式を記念する盛大な祝賀パレードが開催。
また、沿道には、古典主義様式の国会議事堂、ゴシック様式の奉献教会、ルネサンス様式の大学など歴史主義建築の建物が立ち並び、さらに19世紀末にはウィーン分離派のメンバーによる建築も建設された。
第4章:1900年―世紀末のウィーン
カール・ルエーガーがウィーン市長として活躍した時代(1897年-1910年)には、さらに都市の機能が充実する。
路面電車や地下鉄など公共交通機関も発展し、建築家オットー・ヴァーグナーがウィーンの都市デザイン・プロジェクトを数多く提案。
計画のみに終わったものもあるが、今日のウィーンの街並みは、実現されたヴァーグナーの建築によって印象付けられている。
絵画の分野では、1897年にグスタフ・クリムトに率いられた若い画家たちのグループが、オーストリア造形芸術家組合(ウィーン分離派)を結成。
1903年には、工芸美術学校出身の芸術家たちを主要メンバーとして、ウィーン工房が設立。
ウィーン分離派やウィーン工房の重要なパトロンはユダヤ人富裕層だった。
芸術家たちの実験的な精神や妥協のない創作が、この時代の傑作の数々を生み出したのだ。
フランツ・ルス(父)《皇后エリーザベト》1855年 油彩/カンヴァス 81.5 x 58 cm ウィーン・ミュージアム蔵 Wien Museum / Foto Peter Kainz
ハンス・マカルト《1879年の祝賀パレードのためのデザイン画―菓子製造組合》1879年 油彩/カンヴァス 64 x 285.3 cm
ウィーン・ミュージアム蔵 Wien Museum / Foto Peter Kainz
モーリツ・ネーア《郵便貯金局メインホール》1906年 写真 65.5 x 85 cm ウィーン・ミュージアム蔵 Wien Museum
ダゴベルト・ペッヒェ《ティーセット》製作:ウィーン工房 1922-23年 象牙、エンボス加工された銀ティーポット: 19.9 x 27.4 x 16.2 cm
ウィーン・ミュージアム蔵 Wien Museum / Foto Peter Kainz
カール・モル《朝食をとる母と子》1903年 油彩/カンヴァス 100.3 x100 cm ウィーン・ミュージアム蔵
Wien Museum / Foto Peter Kainz
《エミーリエ・フレーゲのドレス》2008年再製作(オリジナル:1909年) コットンジャージー、シルクタフタ、オーガンザ 前丈:150 cm、後丈:170 cm、袖丈:63 cm ウィーン・ミュージアム蔵 Wien Museum / Foto Peter Kainz
オットー・ヴァーグナー《カール・ルエーガー市長の椅子》1904年 ローズウッド、真珠母貝の象嵌、アルミニウム、革 高さ:99 cm、幅:63 cm ウィーン・ミュージアム蔵 Wien Museum / Foto Peter Kainz
以下ヨーゼフ・ホフマン《ブローチ》の画像はフォトギャラリーを参照されたし。
https://art-news-jp.jimdo.com/2019/07/23/ウィーン-モダン-クリムト-シーレ-世紀末への道-フォトギャラリー/
ヨーゼフ・ホフマン《ブローチ》製作:ウィーン工房 1908-10年 銀、金箔、瑪瑙、アメジスト、赤鉄鉱、碧玉、トルコ石、ムーンストーン、珊瑚 4.9 x 4.9 cm International Friends of Wien Museum, A.P.Collection Asenbaum Photo Archive
エゴン・シーレ《女性の肖像》(ウィーン工房ポストカード No.289) 1910年 カラーリトグラフ 14 x 9 cm
ウィーン・ミュージアム蔵 Wien Museum / Foto Peter Kainz
音楽の都としても知られるウィーンだが、建築、絵画と多くの文化を生み出して来た。
筆者が初めてウィーンを訪れた時、街並みの美しさと「世紀末文化」が保存されていることに衝撃を受け、また行ってみたいと強く思ったものだ。
物価もフランスなどより安く、訪れやすい。
水道水はアルプスからの水でおいしい。すばらしい美術作品も多く、食べ物も美味。
ANAのいったん途切れたウィーンへの直行便も今は再開されている。
そんなウィーンを新たな観点から文化のプロセスを探る展覧会。
8月5日(月)まで。お見逃しなく。
会 期
2019年4月24日(水)~8月5日(月)
毎週火曜日休館
開館時間
10:00~18:00
※毎週金・土曜日は21:00まで
※入場は閉館の30分前まで
会 場
国立新美術館 企画展示室1E
〒106-8558 東京都港区六本木7-22-2
主 催
国立新美術館、ウィーン・ミュージアム、読売新聞社
後 援
外務省、オーストリア大使館/オーストリア文化フォーラム、ウィーン市、ウィーン市観光局
特別協賛
キヤノン
協 賛
花王、大日本印刷
協 力
ANA、DNPアートコミュニケーションズ、ヤマトグローバルロジスティクスジャパン、ルフトハンザ カーゴ AG
観覧料(税込)
当日
1,600円(一般)、1,200円(大学生)、800円(高校生)
団体
1,400円(一般)、1,000円(大学生)、600円(高校生)
※中学生以下および障がい者手帳をご持参の方(付添の方1名含む)は入場無料。
お問合せ
ハローダイヤル 03-5777-8600
☆展覧会ホームページ
https://artexhibition.jp/wienmodern2019/
☆国立新美術館ホームページ
☆関連イベント
◯ウィーン・モダン×文化服装学院コラボレーション企画
日本随一のファッション専門学校、文化服装学院とのコラボレーションが実現!
文化服装学院オートクチュール専攻の学生が《エミーリエ・フレーゲの肖像》に描かれた青のドレスを再現。
さらに、ファッション高度専門士科3年の学生によって、現代の感性でエミーリエ・フレーゲにインスピレーションを受けたドレスを制作。
本展期間中、この2つのドレスを会場内にて特別展示。
展示場所:本展会場内(国立新美術館 企画展示室1E)休憩室
*展示場所への入場には本展の観覧券が必要。
*本作品は自由に撮影可。
☆読者プレゼント
5組10名様にご招待券 プレゼント
あて先 : loewy@jg8.so-net.ne.jp に
件名:展覧会名と会場名
本文:ご住所、お名前
をお書きの上どしどしご応募下さい。
締切:http://art-news-jp.jimdo.comにてUPした日の午前零時
速達など最速の方法でお送りいたします。
発送をもって当選と代えさせていただきます。
☆巡回予定
2019年8月27日(火)?12月8日(日)国立国際美術館(大阪・中之島)
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オーバリン大学アレン・メモリアル美術館所蔵 メアリー・エインズワース浮世絵コレクションUkiyo-e Prints from the Mary Ainsworth Collection, Allen Memorial Art Museum, Oberlin College [美術館 ARTNEWS アートニューズ]
オーバリン大学アレン・メモリアル美術館所蔵
メアリー・エインズワース浮世絵コレクション
Ukiyo-e Prints from the Mary Ainsworth Collection,
Allen Memorial Art Museum, Oberlin College
画像はすべて アレン・メモリアル美術館蔵
世界で1点しか存在しない、または現存数の少ない貴重な初期浮世絵などを所蔵するエインズワースの浮世絵コレクションをまとめて紹介する展覧会が、静岡市美術館において好評開催中だ。
アメリカ・オハイオ州オーバリン大学のアレン・メモリアル美術館(Allen Memorial Art Museum, Oberlin College)には、1950年にアメリカ人女性メアリー・エインズワース(Mary Ainsworth)の寄贈した1500件以上の浮世絵や版本が所蔵されている。
エインズワースは、明治39(1906) 年来日し、浮世絵に魅了された。
最初に収集したのは初期浮世絵で、世界に1点しかない稀少作を含め100点近くある。
以降約25年間にわたり初期浮世絵から幕末の北斎・ 広重まで幅広く収集した。
コレクションの過半数を占めるのは歌川広重の作品で、保永堂版《東海道五拾三次之内》や《名所江戸百景》などの有名作に初摺や優品が多く、質量共に大変優れている。
また、六大浮世絵師(春信、清長、歌麿、写楽、北斎、広重)の作品も揃い、エインズワースの浮世絵コレクションで浮世絵の歴史を辿ることができるくらいその収集はバランスがよい。
しかし、エインズワースの浮世絵コレクションは一部浮世絵研究者の間では注目されていたが、アメリカでもあまり紹介される機会はなかった。
この展覧会は、現地調査を行ない、それをもとに選りすぐりの200点を展観するもの。
エインズワースの浮世絵コレクションの全容 を日本に紹介する初めての里帰り展だ。
☆見どころ
・日本初!エインズワースの浮世絵コレクションをまとめて紹介
・世界で1点!現存数の少ない貴重な初期浮世絵も展示
・これぞ浮世絵名品展!六大浮世絵師の優品が一堂に
・浮世絵で江戸の旅!北斎の赤富士で知られる《冨嶽三十六景》や広重の代表作 《東海道五拾三次之内》、《名所江戸百景》は名品を厳選して紹介
☆メアリー・A・エインズワース(Mary Andrews Ainsworth)
1867年:アメリカ・イリノイ州ヘンリー郡ジェネシオで生まれる
1885年:18歳 オーバリン大学に入学
1889年:22歳 オーバリン大学卒業
1905年:38歳 アジアを旅行、翌年来日、浮世絵に出会う
以降、約25年かけて浮世絵収集がはじまる
1950年:83歳で死去。
死後、遺言により、膨大な浮世絵版画・版本のコレクションは母校・オーバリン大学に寄贈
☆目利きの米国女性エインズワース
メアリー・エインズワースは、アメリカでも早くに浮世絵の収集をはじめたコレクターの一人だ。
海外のなかでも浮世絵コレクターが多いアメリカだが、有名なコレクターのほとんどが男性である。メアリー・エインズワースは、その中で肩を並べる目利きの女性コレクター。
日本でも昭和13(1938)年に出された浮世絵コレクターの番付表「古今東西浮世絵数寄者総番付」の「外人数寄者いろは番付」内にその名が掲載されている。
メアリー・エインズワースのコレクションは 「初期浮世絵」からはじまったという。
彼女が最初に手に入れた浮世絵は、石川豊信の「初期浮世絵」。
☆世界で一点しか見つかっていない稀少作!
鳥居清倍《雪中傘を差す遊女と侍女》
美人画で有名な鈴木春信の役者絵や天神図 これも世界で1点しか見つかっていない。
さらに娘が水にさらす布の「きめ出し」 というエンボス技法が際立つ 鈴木春信《「六玉川 調布の玉川」》も見逃せない。
色を使わず表現する 錦絵の祖・鈴木春信の“白”。
余白の美を大切にする日本人の美意識を具現化している。
團十郎の「團」の字は、十一代目 市川海老蔵が指摘しているように本来「團」だが、ここでは美術館提供のキャプションを採用することとする。
☆「大首絵」(役者や美人の胸像)の優品がずらり 顔の特徴にも注目。
画像掲載はできないが、勝川春英 《三代目瀬川菊之丞の油屋おそめ》のかんざしの先には 菊の蝶(菊之丞)が描かれているのをぜひ鑑賞していただきたい。
歌川国芳《大物浦平家の亡霊》には、よく見ると大波の先には平家の亡霊。
様々な色のシルエットが描かれている。
十一代目 市川 海老蔵が現在、歌舞伎座の七月大歌舞伎で「通し狂言 星合世十三團」(ほしあわせじゅうさんだん)において十三役(報道発表は十三役だが、実際には十四役)を演じているが、『義経千本桜』のうちの大物浦(だいもつうら)の場面で渡海屋銀兵((とかいやぎんぺい)実は平知盛(たいら の とももり)も役の一つ。
そのエピソードを現在行われている歌舞伎と当時の浮世とかい絵を両方考えながら鑑賞すると楽しみが倍増する。
歌川国芳《大物浦平家の亡霊》
☆七月大歌舞伎
https://www.kabuki-bito.jp/theaters/kabukiza/play/623
また、ゴッホも模写した歌川広重《名所江戸百景 大はしあたけの夕立》は、船がないものが 一般的だが、船二艘を描く 変わった摺もメアリー・エインズワースは所蔵していた。
歌川広重《名所江戸百景 大はしあたけの夕立》
さて、喜多川歌麿の7枚続の浮世絵《見立唐人行列》を、栃木県那須塩原市の北貞夫医師が自宅で保管していることが2019年7月12日、発表された。
海外の数カ所の美術館は所蔵しているが、国内で7枚全てがそろっているのが確認されるのは初めてだ。
その海外の美術館の一つが、このオーバリン大学アレン・メモリアル美術館所蔵 メアリー・エインズワース浮世絵コレクションなのだ。
《見立唐人行列》は1797~98(寛政9~10)年の作品とされ、朝鮮王朝の外交使節「朝鮮通信使」を女性に置き換えて描いている。異国風の帽子をかぶったり、旗を持っていたりする姿が描かれている。
塩原市の北貞夫医師所蔵のものは個人蔵なので、簡単には鑑賞できないであろう。しかし、この展覧会に展示されている作品ならば、誰でも鑑賞できる。
この展覧会開催中のタイムリーなニュースだ。
もしかしたら、この展覧会がきっかけとなって発表されたのかもしれない。
2019年現在、《見立唐人行列》が2作品、日本に存在している。
歴史上、大変稀有な出来事だ。
今回発見の個人蔵のものと本展出品作品を同列に語るつもりはないが、2作品を日本で鑑賞できるのではないかと誤読されることのないよう注意いただだきたい。
作品群の希少性についての解説も前段の表現で十分ではないかと思われるかもしれないが、しつこく書いているのは、その珍しさを理解いただきたいがためだ。
北貞夫医師所蔵版とメアリー・エインズワース浮世絵コレクションを見比べてみたいものだ。
世界で1つしか存在しない作品やレア作品が展示されている大変貴重な展覧会。
ぜひ、お見逃しなく。
☆構成
1章 「浮世絵の黎明 墨摺絵からの展開」
2章 「色彩を求めて 紅摺絵から錦絵の時代へ」
3章 「錦絵の興隆 黄金期の華 清長から歌麿へ」
4章 「風景画時代の到来 北斎と国芳」
5章 「エインズワースの愛した広重」
葛飾北斎《冨嶽三十六景 凱風快晴》
葛飾北斎《冨嶽三十六景 山下白雨》
歌川広重《東海道五拾三次之内 蒲原 夜之雪》
東洲斎写楽《二代目小佐川常世の一平姉おさん》
■開催期間 2019年6月8日(土)~7月28日(日)【44日間】
休館日/毎週月曜日(ただし月曜祝日の場合は開館、翌日休館)
☆問い合わせ 静岡市美術館(電話054・273・1515)
☆静岡市美術館 公式サイト
☆ご意見・ご要望・ご感想のお願い
よりよいサイトづくりのため、読者の皆さまからのご意見を常時受け付けております。
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オーバリン大学アレン・メモリアル美術館所蔵 メアリー・エインズワース浮世絵コレクションUkiyo-e Prints from the Mary Ainsworth Collection, Allen Memorial Art Museum, Oberlin College [美術館 ARTNEWS アートニューズ]
オーバリン大学アレン・メモリアル美術館所蔵 メアリー・エインズワース浮世絵コレクションUkiyo-e Prints from the Mary Ainsworth Collection, Allen Memorial Art Museum, Oberlin College
「仮UP」
校正後、「本UP」のため、原稿に変更が出る場合あり。
喜多川歌麿《美人気量競 五明楼 花扇》
アレン・メモリアル美術館蔵
世界で1点しか存在しない、または現存数の少ない貴重な初期浮世絵などを所蔵するエインズワースの浮世絵コレクションをまとめて紹介する展覧会が、静岡市美術館において好評開催中だ。
アメリカ・オハイオ州オーバリン大学のアレン・メモリアル美術館(Allen Memorial Art Museum, Oberlin College)には、1950年にアメリカ人女性メアリー・エインズワー ス(Mary Ainsworth)の寄贈した1500件以上の浮世絵や版本が所蔵されている。
エインズワースは、明治39(1906) 年来日。
その際、浮世絵に 魅了され、最初に収集したのは初期浮世絵で、世界に1点しかない稀少作を含め100点近く収集した。
以降約25年間にわたり初期浮世絵から幕末の北斎・ 広重まで幅広く収集。
コレクションの過半数を占めるのは歌川広重の作品で、保永堂版《東海道五拾三次之内》や《名所江戸百景》などの有名作に初摺や優品が多く、質量共に大変優れている。
また、六大浮世絵師(春信、清長、歌麿、写楽、北斎、広重)の作品も揃い、エインズワースの浮世絵コレクションで浮世絵の歴史を辿ることができるくらいその蒐集はバランスがよい。
しかし、エインズワースの浮世絵コレクションは一部浮世絵研究者の間では注目されていたが、アメリカでもあまり紹介される機会はなかった。
今回が初めてという作品もあり、大変貴重な展覧会。
☆見どころ
・日本初!エインズワースの浮世絵コレクションをまとめて紹介
・世界で1点!現存数の少ない貴重な初期浮世絵も展示
・これぞ浮世絵名品展!六大浮世絵師の優品が一堂に
・浮世絵で江戸の旅!北斎の赤富士で知られる《冨嶽三十六景》や広重の代表作 《東海道五拾三次之内》、《名所江戸百景》は名品を厳選して紹介
ぜひ、お見逃しなく。
■開催期間 2019年6月8日(土)~7月28日(日)【44日間】
休館日/毎週月曜日(ただし月曜祝日の場合は開館、翌日休館)
7月15日(月・祝)は開館
☆問い合わせ 静岡市美術館(電話054・273・1515)
☆静岡市美術館 公式サイト
☆関連イベント
浮世絵摺り体験「摺師(すりし)に挑戦!広重の《保永堂版東海道 四日市》を摺ろう」
「オーバリン大学アレン・メモリアル美術館所蔵 メアリー・エインズワース浮世絵コレクション ―初期浮世絵から北斎・広重まで」関連イベント。
歌川広重《保永堂版東海道 四日市》(部分図)の摺り作業を体験。
[日 時]
2019年7月13日(土)~7月15日(月・祝)
13:00~16:30の間随時実施 ※1人10分程度
[会 場]
当館多目的室
[参 加 料]
無料
[申 込]
申込不要(当日直接会場へ)
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クリムト展 ウィーンと日本 1900 Gustav Klimt: Vienna – Japan 1900 [美術館 ARTNEWS アートニューズ]
クリムト展 ウィーンと日本 1900
Gustav Klimt: Vienna Japan 1900
待望のクリムト展、過去最大級。
グスタフ・クリムト《ユディトⅠ》
1901年 油彩、カンヴァス 84×42cm
19世紀末ウィーンを代表する画家グスタフ・クリムト(Gustav Klimt 1862-1918)。
華やかな装飾性と世紀末的な官能性をあわせもつその作品は、いまなお圧倒的な人気を誇る。
東京都美術館においてクリムトの2018年の没後100年を記念する展覧会が好評開催中だ。
また、2019年はオーストリアと日本の友好150周年を迎える記念の年でもある。
この展覧会では、初期の自然主義的な作品から、分離派結成後の「黄金様式」の時代の代表作、甘美な女性像や数多く手掛けた風景画まで、《ユディトI》など貴重な油彩画を含む日本では過去最多となる25点以上のクリムトの油彩画を紹介。
クリムトについては以下などで記しているので参照されたし。
☆生誕1 5 0 年記念クリムト 黄金の騎士をめぐる物語
https://artnews.blog.so-net.ne.jp/2013-02-02
https://artnews.blog.so-net.ne.jp/2013-03-28
https://artnews.blog.so-net.ne.jp/2013-05-28-1
さらにこの展覧会の特徴は、クリムト作品の世界的殿堂ともいえるウィーンのベルヴェデーレ宮オーストリア絵画館(Schloss Belvedere)の所蔵作品を中心に、クリムトの画業の変遷と共にクリムトが影響を受けた日本の美術品や同時代のウィーンで活動した画家たちの作品も展示されていること。
19世紀末のウィーンで紹介された日本の工芸品や絵画を通して、クリムトが受けたジャポニスムの影響にも言及されている。
また、ウィーンの分離派会館を飾る壁画の精巧な複製による再現も見逃せない。
☆グスタフ・クリムトとは?
グスタフ・クリムト(1862-1918)はウィーンの世紀末美術を代表する画家。
クリムト独自の甘美で装飾的なスタイルは、今なお多くの人々を魅了し続けている。
保守的なウィーン美術家組合を嫌った芸術家達によって1897年にウィーン分離派が結成された。
クリムトは初代会長を務めた分離派は古典的、伝統的な美術からの分離を標榜する若手芸術家のグループである。
この分離派は展覧会、出版などを通してモダンデザインの成立に大きな役割を果たした。
クリムトは1902年に開催された分離派によるベートーヴェン展に大作『ベートーヴェン・フリーズ』を出品したが、世間から反感を買ってしまう。
この作品は長年行方不明となっていたが、1970年にオーストリア政府により買い上げられて修復を受け、現在ではセセッション館(分離派会館)所蔵。
その翌1903年、第18回ウィーン分離派展ではクリムトの回顧展示が行われた。
この展覧会は、クリムトにとってもこれだけ多くの作品を出品することは初めてで、特別な機会であった。
その展覧会で初めて出品されたのが、当時のクリムトが置かれた状況を映し出す『人生は戦いなり(黄金の騎士)』である。
この《人生は戦いなり》のメインモチーフである「黄金の騎士」のイメージは、寓意に富んだ《ベートーヴェン・フリーズ》(1902 年)に描かれた騎士像に直接由来している。
また金を多用しつつ、平板で幾何学的な装飾性は、当時のウィーンを取り巻く美術界の中から生まれたもので、ウィーン工房の作品との共通性が認められる。
無垢な少女、魔性の女、運命の女など女性の様々な魅力を官能的なテーマで描くクリムト。
しかし、クリムトの初期は写実的でアカデミックな画風だった。
オーストリア芸術を代表する国宝的作品としても位置付けられる《接吻》。
これに代表される作品に見られる、金箔を多用する「黄金様式」の時代を経て、装飾的で抽象的な色面と人物を組み合わせた独特の画風を確立。
ウィーン・モダニズムの旗手として活躍。
グスタフ・クリムト《ヌーダ・ヴェリタス(裸の真実)》
1899年 油彩、カンヴァス 244×56.5cmNational Gallery of Art, Washington, Gift of Otto and Franciska Kallir with the help of the Carol and Edwin Gaines Fullinwider Fund, 1978.41.1
○みどころ
☆「黄金様式」の時代の代表作のひとつ《ユディトI》も含まれるほか、全長34mにも及ぶ壁画《ベートーヴェン・フリーズ》の精巧な複製も来日し、ウィーンの分離派会館での展示を再現。
グスタフ・クリムト《ベートーヴェン・フリーズ》(部分)
1984年(原寸大複製/オリジナルは1901-02年) 216×3438㎝
☆ローマ国立近代美術館(Galleria Nazionale d’Arte Moderna E Contemporanea)所蔵の《女の三世代》が日本初公開。
クリムトが深い関心を寄せた生命の円環をテーマに、人間の一生を幼年期、青年期、老年期の三段階に分けて寓意的に表す作品。
縦横約170cmと、壁画などを別にすればクリムト最大の絵画のひとつ。
グスタフ・クリムト《女の三世代》
筆者は、ベルヴェデーレ宮オーストリア絵画館とローマ国立近代美術館でクリムトの作品を実際に鑑賞したが、それには、かなりの時間と移動距離を要した。
しかし、この展覧会に行けば、一度に見られることは大変意義深いことだと考える。
クリムトの没後100年を記念するイベントとして、パリで“Les soirees Klimt”が開催されていた。
パリ市の東のはずれに位置する会場は、観光客が訪れることの少ない場所にもかかわらず、連日、入場するのに長蛇の列ができており、広い会場も人でいっぱいだった。
プロジェクションマッピングによるクリムトの作品は、広い会場いっぱいに映し出され、迫力満点。
https://www.atelier-lumieres.com/fr/soirees-klimt
Atelier Des Lumieres 撮影 浦 典子
“Les soirées Klimt” 撮影 浦 典子
東京では、約30年ぶりのクリムトの展覧会。
パリを悪く言うわけではないが、日本では、本物のクリムトの作品が鑑賞できる。
クリムトの作品j数は多くない。
25点ものクリムトの油彩画作品が展示されるのは、なかなか難しいことだ。
お見逃しなく。
☆ベルヴェデーレ宮オーストリア絵画館(Schloss Belvedere)
ベルヴェデーレ宮オーストリア絵画館(外観) Belvedere, Vienna, Photo: Ouriel Morgenstzern
☆ローマ国立近代美術館(Galleria Nazionale d’Arte Moderna E Contemporanea)
http://lagallerianazionale.com/
ローマ国立近代美術館 外観 (Galleria Nazionale d’Arte Moderna E Contemporanea) 撮影 浦 典子
ローマ国立近代美術館の展示風景 撮影 浦 典子
グスタフ・クリムト《アッター湖畔のカンマー城III》
[展覧会名]クリムト展 ウィーンと日本 1900
[会 期] 2019年4月23日(火)? 7月10日(水)
[休室日] 7月1日(月)
[開室時間]午前9時30分~午後5時30分
※金曜日は午後8時まで(入室は閉室の30分前まで)
※7月4日(木)、6日(土)は特別夜間開室のため
午後8時まで(入室は閉室の30分前まで)
[会 場] 東京都美術館 企画展示室
〒110-0007 東京都台東区上野公園8-36
[主 催] 東京都美術館(公益財団法人東京都歴史文化財団)、
朝日新聞社、TBS、
ベルヴェデーレ宮オーストリア絵画館 Belvedele
[後 援] オーストリア大使館 / オーストリア文化フォーラム
JAPAN - AUSTRIA 1869 - 2019
[協 賛] ショップチャンネル、セコム、損保ジャパン日本興亜、
大日本印刷、竹中工務店、トヨタ自動車、三菱商事、
パナソニック、みずほ銀行
[協 力] 全日本空輸
[お問い合わせ] 03-5777-8600(ハローダイヤル)
観覧料
当日券 一般 1,600円 / 大学生・専門学校生1,300円 / 高校生 800円 / 65歳以上 1,000円
団体券 一般 1,400円 / 大学生・専門学校生1,100円 / 高校生 600円 / 65歳以上 800円
※団体割引の対象は20名以上
※中学生以下は無料
※身体障がい者手帳・愛の手帳・療育手帳・精神障がい者保健福祉手帳・被爆者健康手帳をお持ちの方とその付添いの方(1名まで)は無料。
※いずれも証明できるものをご持参のこと。
主催
東京都美術館(公益財団法人東京都歴史文化財団)、朝日新聞社、テレビ朝日、BS朝日
後援アメリカ大使館特別協賛第一生命グループ 第一生命、第一フロンティア生命、ネオファースト生命協賛セコム、凸版印刷、三菱商事、アトレ、竹中工務店
協力
日本航空、日本貨物航空
お問い合わせ先TEL:03-5777-8600(ハローダイヤル)
☆東京都美術館
☆特設WEBサイト
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☆巡回予定
2019年7月23日(火)~ 10月14日(月・祝) 豊田市美術館