特別企画展 象徴派 ~夢幻美の使徒たち [美術館 ARTNEWS アートニューズ]
特別企画展 象徴派 ~夢幻美の使徒たち
ギュスターヴ・モロー 「聖セバスティアヌスと天使」 1876年頃 岐阜県美術館
19世紀後半、フランスやベルギーを中心として、象徴派と呼ばれる芸術運動が起こった。
その象徴派の絵画からガラス工芸まで、象徴派全貌を明らかにする素敵な展覧会が姫路市立美術館で開かれている。
オディロン・ルドン「眼をとじて」1900年以降 岐阜県美術館
◆象徴主義 Symbolismとは・・・
フランス文学(とくに詩の領域)における象徴主義の動きと連動して、1870年代から1900年代にかけて起こった絵画や彫刻などの視覚芸術上の運動をさす。
19世紀後半から世紀末にかけて、ヨーロッパでは印象派の絵画が誕生し、次第に画壇の主流を占めるようになった。
同じ頃、ものの外観のみを描く印象派に反発するかのように、深遠な精神世界や心の内面を表現することを主張した芸術家や評論家たちがいた。
ジョン・エヴァレット・ミレイ「アリス・グレイの肖像」 1859年 新潟県立近代美術館・万代島美術館
その領域は、あらゆる分野に広がった。
マラルメやヴェルレーヌといった詩人たちは、言葉の音楽性を重視し、響きによってある観念を象徴させることを試みた。
画家や彫刻家たちもまた、写実主義への反動から、神秘的なものや超自然的な観念の表現を目指した。
例えば、批評家のアルベール・オーリエによる、芸術作品の必須条件は以下のとおり。
①理念的であること
②象徴的であること
③総合的であること
④主観的であること
⑤装飾的であること(「絵画における象徴主義」1891年)
すなわち、象徴主義とは、特定のグループによって築かれた新しい芸術形式ではなく、世紀末のさまざまな分野の芸術家たちが相互に影響を及ぼし合いながら生み出していった広汎な現象といえるのだ。
日本でも、明治末から大正にかけて、「秋の日のヴィオロンのためいきの…」の訳詞で有名な上田敏によって、ヴェルレーヌ、マラルメ、ヴェラーレン、マーテルランク(メーテルリンク)など、同時代の象徴派の詩人が紹介されている。
一方、象徴派の画家たちは、眼に見える世界を超えたところにある理想や、事物の背後に潜む存在の神秘を描き出そうと試みる。
魔性の女サロメやスフィンクス、死せるオルフェウス、また小説「死都ブリュージュ」の世界観を描いたクノップフや、モロー、ルドン。
そして、ポスト印象派といわれるようなタヒチの画家ゴーギャンやアンティミスム (親密派)の画家ドニ、ボナール、ヴュイヤールなども象徴派に分類されているので、象徴派という語彙に馴染みのない人でも親しみやすいのだ。
ポール・ゴーギャン「ブルターニュの少年の水浴(愛の森の水車小屋の水浴、ポンタヴェン)」
1886年 公益財団法人 ひろしま美術館
退廃的で世紀末的な雰囲気、ロマン主義のリヴァイヴァル、異国趣味など、19世紀末に広まった象徴派の特徴はさまざまな顔を見せる。
ロマン主義的なモロー、シャヴァンヌ、ルドン、カリエールから、ガレやドーム兄弟、ロートレック、ミュシャなどアールヌーヴォーの装飾芸術、ゴーギャンらの総合主義、ボナールなどのナビ派、ムンク、そしてベルギー象徴派を代表するクノップフ、デルヴィルなどの名品が一同に会す。
ウジェーヌ・カリエール「想い」1890-93年 大原美術館
エミール・ガレ「芥子文花器」1900年頃 個人蔵(黒壁美術館寄託)
エミール・ガレ「花文棚」1900年頃 個人蔵(黒壁美術館寄託)
この展覧会の特徴は、その作家の作品の中でも特に名品を集めたことであろう。
これらは、すべて日本の美術館所蔵の作品というから驚く。
エミール・ベルナール 「ポンタヴェンの市場」 1888年 岐阜県美術館
ピエール・ボナール「アンドレ・ボナール嬢の肖像 画家の妹」1890年 愛媛県美術館
筆者は、初めて姫路市立美術館を訪れたのだが、ここは外国かと思うくらい緑の芝生に囲まれた赤レンガの建物はとってもおしゃれ。
これは、明治末~大正2年建築・旧陸軍第10師団の兵器庫、被服庫を保存活用した建物という。
世界文化遺産・姫路城の東隣にあり、夜間はお城と共にライトアップされ、さらにロマンティック。
また敷地内にはフランスの彫刻家アントワーヌ・ブールデルやアリスティド・マイヨールなどの彫刻が展示され、散策しながら、芸術鑑賞を楽しむことができる。
実は、筆者は、南側の入口から入ったので、美術館正面入り口の庭園の前に位置するブールデルの作品を背後から見ることになったが、作家の特徴的個性から、筆者はすぐにブールデル作とわかった。
姫路市立美術館 東側から望む(イメージ) 姫路城は現在修復中
この展覧会を鑑賞する前から、自ずと期待感は高まったのである。
そのことを山田真規子担当学芸員に言うと、マイヨールのディナの作品も所蔵していると教えてくれた。
ディナが館長を務めるマイヨール美術館でお目にかかったことがあるが、大変背の低い小さなマダムで、しかし凛とした美しさがあった。
その後、ディナは亡くなったが、お目にかかれたことが走馬灯のようによみがえった。
その彫刻家マイヨールの珍しい油彩画もこの展覧会に展示されている。
アリスティド・マイヨール「山羊飼いの娘」1890年頃 岐阜県美術館
ちなみに「手の痕跡 国立西洋美術館所蔵作品を中心としたロダンとブールデルの彫刻と素描」展が、国立西洋美術館で開催中である。
http://www.nmwa.go.jp/jp/exhibitions/rodin2012.html
なお、この姫路市立美術館建物は、第1回兵庫県緑の建築賞(昭和60年)や環境色彩10選公共の色彩賞(昭和63年)を受け、平成15年には国の登録有形文化財になっている。
山田真規子担当学芸員によると、姫路市立美術館はベルギー美術の所蔵が豊富だという。
ベルギー象徴主義において指導者的存在となった同派最大の画家、クノップフ。
その最大の傑作『愛撫』。
人間の頭部と獅子の肉体を持つ、神話上の生物≪スフィンクス≫が、男性とも女性とも受け取ることができる両性具有的な人物を愛撫する姿で有名な画家である。
ベルギー王立美術館で見た時は、衝撃を覚えた。しかし、不思議に惹きつけられる画家である。
参考 フェルナン・クノップフ 「愛撫」 ベルギー王立美術館
※注 上記の作品はこの展覧会には出展されていない。
この展覧会で展示されているクノップフの「天井画-絵画、音楽、詩歌」は3メートルを超える大作で、ベルギー王立美術館の所蔵作品にも引けを取らない。
この作品は姫路市立美術館の所蔵である。実
際見てみると、その大きさと静謐な作品には、引き込まれるようである。
フェルナン・クノップフ「天井画-絵画、音楽、詩歌」1880年 姫路市立美術館
フェルナン・クノップフ「ヴェネツィアの思い出」1901年頃 姫路市立美術館
世界文化遺産・姫路城の隣というこんな環境のすばらしい美術館で象徴派の画家たちが紡ぎ出す、夢幻美の世界を楽めるなんて大変贅沢な体験である。
なお、図録は、各国における象徴派に親しみが持てる構成である。
もう一度、ベルギーやフランスに象徴派という切り口で旅してみたいという気持ちにさせる展覧会だ。
ワシリー・カンディンスキー「夕暮れ」1903年 愛知県美術館
【主催】
姫路市立美術館、神戸新聞社
【開催期間】
2012年11月03日(土) ~ 2012年12月16日(日)
【開催場所】
姫路市立美術館 企画展示室
【開館時間】
午前10時~午後5時(入場は午後4時30分まで)
【休館日】
毎週月曜日
【入館料】
一般 1000円(800) 大学・高校生 600円(400) 中学・小学生 200円(100)
※( )内は20名以上の団体料金
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