第204回企画展 20世紀琳派 田中一光 [美術館 ARTNEWS アートニューズ]
第204回企画展
20世紀琳派 田中一光
撮影:すべて浦 典子
京都dddギャラリーでは、「琳派400年」(1615年、本阿弥光悦が、京都の洛北鷹ヶ峰に光悦村を創設してから400年)を記念し、DNPグラフィックデザイン・アーカイブの田中一光作品の中から、琳派に見られる主題、技法、色、形、さらには創作に対する姿勢といった観点からひも解く田中一光の展覧会が開催中だ。
今年(2015年)は、琳派400年。
筆者は、これまでにさまざまな琳派に関する展覧会を紹介しているので参照されたし。
http://artnews.blog.so-net.ne.jp/2015-04-05
http://artnews.blog.so-net.ne.jp/2015-04-17
http://artnews.blog.so-net.ne.jp/2015-07-07-1
http://artnews.blog.so-net.ne.jp/2015-09-06
http://artnews.blog.so-net.ne.jp/2015-10-15
田中一光と琳派?と不思議に思う人がいるかもしれないが、琳派という切り口から田中一光を鑑みる絶好の機会を与えてくれたのはこの展覧会だと筆者は思う。
奈良県立美術館の田中一光展については、以下で記しているので参照されたし。
http://artnews.blog.so-net.ne.jp/2013-03-17
田中一光は、「ショートピース」をデザインしたレイモンド・ローウィのものをベースに田中一光が、全く違うベースに色を採用し、「ロングピース」を世に送り出した。それは、ピースのラインナップ中でも異彩を放っている。
世界的グラフィックデザイナーという評価が多い田中一光。しかし、彼の経歴と作品群を改めて、見つめてみると、「田中が琳派的なのではなく、琳派を体現する人物なのだ」と評する美術史家の山下裕二の述べる意味がよく理解できる。
田中一光は、奈良に生まれ、多感な青春時代の4年間を京都(京都市立美術専門学校 / 現・京都市立芸術大学)で過ごした。
日本の伝統美、とりわけ生活の中の美を追い続けてきた琳派の世界に大いに触発されたという。
17世紀の宗達、18世紀の光琳、19世紀の抱一。
芸術的な美しさの中に優れたデザイン要素を感じとった田中一光は、そのエッセンスを上手に継承した。
そして、自分自身の一部として“血肉化”し、斬新にもかかわらずどこか「懐かしい」デザインを創造して行ったのだ。
この展覧会を企画し、田中一光と共に仕事をして来た(株)DNPアートコミュニケーションズ 高木 美歩 企画担当は、筆者のインタビューに対し、以下のように秘話を語ってくれた。(筆者要約)
「田中一光は、宝塚歌劇団が好きで、よく見に行き、ご一緒した。ダンスが好きで、グラフィックデザイナーの永井
一正(ながい かずまさ)の前で、全身白タイツで踊ったこともある。
茶道にも明るく、お茶を愛する茶人で「宗一(そういつ)」と名乗っていた。
大変優しい、温和なかたで、いつも他人に配慮しているかただった。ご一緒できて大変いい体験になった。この展覧会では、版画家、木田安彦が油絵で描いた田中一光の肖像画を展示した。父がいない木田安彦は、田中一光を父親のように慕っていたので、田中一光没後、その骨を砕いてこの絵に練り込んだ。これは、田中一光がお茶を点てている姿で、右奥にはキース・ヘリング(Keith Haring)の絵が掛けられている。田中一光は、キース・ヘリングを早くから評価していた。
木田安彦《田中一光先生 肖像画》
田中一光が、自分の作品のパーツをうまく抜き出してまた、別の作品を作っているので、来場者にはぜひ探してみていただきたい。
多くの作品を田中一光のご遺族から寄贈されたことをありがたく誇りに思っている。」
高木企画担当は、質問しなくても、こちらが聞きたいであろうことを予め推し量って丁寧に説明してくれた。
画家と一緒に仕事をしたかたの話は、説得力があり、大変興味深い。まだまだ、お聞きしたいことがたくさんあったのが残念だ。
木田安彦については、以下で記しているので参照されたし。
http://artnews.blog.so-net.ne.jp/2010-10-13
この展覧会の監修をした木田安彦は去る2015年8月13日に逝去なさった。大変残念に思う。
病気を押して、師、田中一光のためにご尽力なさったのであろう。2010年の三十三間堂展を木田安彦は「トリ」と呼んでいた。木田安彦の監修「トリ」の展覧会が、この展覧会だ。芸術家同士が互いに才能を尊重しあい、人格をも尊敬し続けた、感動の展覧会だ。二つの展覧会を拝見した者として、熱いものが込み上げて来る。
ご冥福を心よりお祈りする。
この展覧会は、厳選した田中一光の作品123点を20世紀琳派 田中一光誕生の軌跡を辿りながら、回顧できる構成だ。
また、田中一光ポスター約1600点強を解析した、ライゾマティクスによるモーショングラフィックスも。
この展覧会の入場は無料。しかも、どなたでもフラッシュさえ使わなければ撮影を許可されている。
何という太っ腹だろうか。
この京都dddギャラリーには、初めて訪れたが、受付の女性が、「お待ちいたしておりました。」と皆、素晴らしい笑顔で迎えてくれた。その第一印象がかなりよく、この京都dddギャラリーは好きかも?と思いながら、もう一度訪れた。すると、筆者を覚えていて下さり、さらに満面の笑みで迎えて下さった。
美術館にも接客応対は必要と再認識させられた体験だった。
ミュージアムショップには、このスタッフの皆さんがディスプレイした田中一光の「風呂敷」や図録、書籍が展示されている。
読者の皆さまには、何としてでも行っていただきたい、dddギャラリーだ。
会場
京都dddギャラリー
会期
2015年8月18日(火)- 10月29日(木)
11:00-19:00(土曜・日曜は18:00まで)
祝日休館(本企画展は、特別に日曜も開催)
入場無料
〒616–8533 京都府京都市右京区太秦上刑部町10
TEL:075-871-1480
FAX:075-871-1267
地下鉄東西線 太秦天神川駅1番出口 徒歩3分、嵐電嵐山本線 嵐電天神川駅
徒歩5分、
市バス・京都バス 太秦天神川駅前下車、駐車場無
■ 監修: 永井一正、木田安彦、山下裕二
■ 後援: 京都新聞
■ 特別参加: ライゾマティクス
ギンザ・グラフィック・ギャラリー第346回企画展「ライゾマティクス グラフィックデザインの死角」で発表した、DNP文化振興財団が所蔵する膨大な田中一光のアーカイブと、モリサワから提供された約1,600枚強の作品データから導き出した田中一光作品の解析結果、「配色」「構成」「感性」3つを再構成し紹介するもの。
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