開館15周年記念 カミーユ・ピサロと印象派 永遠の近代と印象派 [美術館 ARTNEWS アートニューズ]
開館15周年記念 カミーユ・ピサロと印象派 永遠の近代と印象派
印象派の画家のなかで最年長者であったピサロは、風景画を得意とした印象派の父ともいうべき存在の画家。
印象派の画家には、女性を美しく描いたルノワール、「光の画家」と呼ばれるモネ、同じく風景画を得意としたセザンヌやシスレーなどがあげられるが、ピサロは最年長だったため、無数の枝葉の中の動かぬ幹のように、しっかりと印象派の美学を支えつづけた揺るぎのない存在であった。
そのピサロの展覧会が宇都宮美術館の開館15周年を記念した特別展として好評開催中である。記念展であるので、かなりしっかりと練り上げられた展覧会。
かなり期待できるのだ。
ピサロは大変温厚な性格で、人間性豊か。そのため画家仲間の信望が厚く、ゴッホやセザンヌらの若い世代の画家を擁護し、また励ましてもいた。
生来気難しく、人付き合いの悪かったセザンヌさえもピサロを師と仰ぎ、しばしば共同制作を行なったくらいである。
また、マティスとはしばしば印象主義について熱心に討論するなど、数多くの画家たちがピサロの考えを分かち合い、彼を慕っていたことは、よく知られている。
ピサロの交友関係とともに、その生涯と制作をふりかえり、印象派そのものについて、そして彼が描いた「自然」について、あらためて考察しようという試みの展覧会である。
ピサロのことはよく知らないというかたも彼の作品の静謐さや人柄に触れると必ずやファンになると断言しても過言ではない。
この展覧会は、日本人にピサロの功績を示し、さらなるピサロのファンを増やすきっかけとなるであろう。
筆者自身、ピサロの作品をパリのオルセー美術館で拝見してから、大ファンになった。最も尊敬すべき画家のひとりである。
この「カミーユ・ピサロと印象派 永遠の近代と印象派」展は、必見。
何としても見に行かれることをお勧めする。
ピサロの生い立ち
ピサロは、今から約180年前の1830年、カリプ海のセント・トーマス島にボルドー出身のセファルディム(中東系ユダヤ人)の三男として誕生。
父親が貿易商人だったため、最初は父の下で働きながら、港での仕事の合間に画帳に素描をしていた。しかし彼の父はそれをよくは思っていなかった。
それゆえ彼は1852年、22歳のとき、絵を描くためにひそかに家出をした。
それからの数年間は、カリブ海の島々で原住民の生活や椰子の木のある風景などを描き、1855年、芸術の都パリに出る。
パリで彼は、カミーユという同じファーストネームの画家、コローらに学び、やがては「印象派」の中心的な存在に。
印象派の展覧会は1874 年に第1 回展が開催され、1885 年までの13 年間に断続的に合計8 回開催された。
が、毎回欠かさず出品しつづけ、辛抱強く印象派を支えつづけた画家は実はピサロただ一人のみ。
だからこそ彼は、印象派の立場を印象主義として次のように説明することができたのである。
「本物の印象主義とは、客観的観察の唯一純粋な理論となり得る。
それは、夢を、自由を、崇高さを、さらには芸術を偉大にするいっさいを失わず、人々を青白く呆然とさせ、安易に感傷に耽らせる誇張を持たない」と。
この言葉は、彼のカンヴァスの色と形に静かに結晶している。
なお、パリ郊外のポントワーズには彼の名を冠した美術館が建てられている。
展覧会の見どころ
ピサロは最初、コロー、クールベ、ドービニーなどの巨匠たちの作品に学び、やがて印象派の画風を確立した。
そして今度はそれをセザンヌやゴーガンなどの若い画家たちに分け与えつつ、自らも彼ら新進の画家達から多くものを吸収して行った。
また、晩年になるにつれ、もはや画風ではなく、精神的な部分で若い画家たちと考えを一つにするようにもなった。
今回の展覧会では、他の画家たちとピサロが何を分かち合っていたのか、という点が見どころの一つ。
このような切り口の展覧会は、斬新で興味深い。
図録には、宇都宮美術館有木宏二学芸員が、「カミーユ・ピサロ 影へのまなざし」というテーマでわかりやすく解説しており、さらに興味を増す。
絵の解説だけではなく、数々の日本の芸術家のエピソードを織り込み、大変面白い。
年表では、ピサロの生涯がわかりやすく述べられているので、彼の生き方を再考するのに役立つ。
前述のポントワーズ美術館館長の解説は、印象派から新印象派への移ろいを論理的にうまく述べている。
ジュニアガイドブックは、小さなお子様にも親しみを持ってもらえるようイラスト入りの小冊子。
ピサロじいさんが、子供たちにやさしく語りかける。
大人が読んでも充分楽しめる。
筆者が子供のころにこんな冊子があればよかったのに・・・
と今の子供たちがちょっぴり羨ましくなった。
このポントワーズ美術館だけでなく、パリのオルセー美術館やプティ・パレなど多くの美術館からの協力を得た展覧会である。
会期終了まであとわずか。お見逃しなく。
会 期 2012年3月24日(土)~2012年5月27日(日)
※本展は宇都宮美術館の会期終了後、兵庫県立美術館に巡回。
ただし、宇都宮美術館のみの展示作品あり。
開館時間 午前9時30分~午後5時(入館は午後4時30分まで)
休館日 毎週月曜日
観覧料 一般:1,000円(800円) 大学生:600円(480円) 高校生以下無料 ()内は20名以上の団体料金 ※身体障がい者手帳の交付を受けている方とその介護者(1名)は無料
主 催 宇都宮美術館、下野新聞社、産経新聞社
企画協力:有限会社 アルティス
協力:エールフランス航空
後援:フランス大使館
本展は、政府による美術品補償制度の適用を受けている。
ギャラリートーク
日 時:会期中、毎週土曜日午後2時~
企画展担当学芸員による作品解説。
※本展覧会チラシに表記の『(ただし5月4日を除く)』は誤記。
訂正してお詫び申し上げます、とのこと。
☆読者プレゼント
10組20名様にご招待券 プレゼント
あて先 : loewy@jg8.so-net.ne.jp に
件名:展覧会名と会場名
本文:ご住所、お名前
をお書きの上どしどしご応募下さい。
発送をもって当選と代えさせていただきます。
リニューアルオープン&開館15周年記念コレクション展 Permanent Collection Museum Renewal and 15th Year Anniversary
宇都宮美術館では、20世紀以降の美術・デザイン作品を収集しており、その作品を広く皆様にご紹介するために、コレクション展を開催。
開館15周年を記念して、西洋の美術と日本近代美術、そしてデザインのコーナーは、まさにベスト・オブ・宇都宮美術館!のラインナップで展示。
ほか、「日本の戦後美術~鉄の表情」」「宇都宮にゆかりの日本画~祈り」の全5章で構成するコレクション展。
こちらもお忘れなく。
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