ロシア近代絵画の頂点 国立トレチャコフ美術館所蔵 レーピン展 [美術館 ARTNEWS アートニューズ]
国立トレチャコフ美術館所蔵
レーピン展
19世紀後半から20世紀にかけてのロシアの画家イリヤ・レーピンの展覧会が神奈川県立近代美術館葉山で好評開催中である。
イリヤ・レーピンのことをよく知らないという人には、ピアノ組曲『展覧会の絵』を作曲したことで名高い音楽家、モデスト・ムソルグスキーの肖像画を描いた人で音楽の教科書や音楽室で見たことのある、あの絵の作者といえばわかりやすいであろう。
《作曲家モデスト・ムソルグスキーの肖像》 1881年 (C)The State Tretyakov Gallery
19世紀後半から20世紀は激動の時代で、この時期のロシアはトルストイやドストエフスキーといった文学者、チャイコフスキーやムソルグスキーといった音楽家など、多くの偉大な文化人を輩出している。
美術の世界において彼らに匹敵するのがイリヤ・レーピン(1844-1930)なのだ。
この展覧会は、2012年8月4日(土)~10月8日(月・祝) Bunkamura ザ・ミュージアムで始まり、
2012年10月16日(火)~12月24日(月) 浜松市美術館、
2013(平成25)年2月16日(土)~3月30日(土) 姫路市立美術館を巡回した後、今、神奈川県立近代美術館葉山で開催されている。
この展覧会を開催するにあたり、その企画を行なった担当学芸員においては随分骨の折れたことと推察する。
レーピンはこの時代のロシアの重要な美術運動である移動派の中心的画家として活躍した。移動派とは、美術アカデミーに反発したロシア・リアリズムの画家たちが組織したものだ。
この移動派という名称は、彼らがロシア各地で巡回美術展を主宰したことにちなんでいる。
レーピンは、会員となる前から出品を始め、意見の違いから退会した後も作品を出品している。
昨年(2012年)「大エルミタージュ美術館展 世紀の顔・西欧絵画の400年」が開催されたが、その中に出品されていたのが、「レンブラント・ファン・レイン 《老婦人の肖像》 1654年」である。
レーピンが、エルミタージュ美術館に通い、レンブラントのこの作品を模写している
。その作品が、このレーピン展に出品されているので、ぜひ、比較して観賞してみたい。
参考 レンブラント・ファン・レイン 《老婦人の肖像》 1654年Photo: The State Hermitage Museum, St. Petersburg, 2012 (注 このレーピン展では出品されていない。)
イリヤ・レーピン 《老女の肖像》 1871-1873年 撮影 浦 典子(C)The State Tretyakov Gallery
「大エルミタージュ美術館展 世紀の顔・西欧絵画の400年」については、以下で紹介しているので参照されたし。
http://artnews.blog.so-net.ne.jp/2012-07-07-2
http://artnews.blog.so-net.ne.jp/2012-11-27
レーピンの画法には、レンブラントと印象派の影響が大きいという。
レーピンはレンブラントの研究をかなり行っていた。
レーピンは《老女の肖像》でおおまかなタッチの部分と細部にわたる部分とをうまく描き分けている。
また、プレ印象派のマネの筆あとを残すようなタッチでレーピンは描いている。
革命前後の激動の時代を生きたレーピンは、《思いがけなく》や《懺悔の前》といった、当時の社会状況を表す作品を描いた。
《思いがけなく》は、発表と同時に論争の的となった作品。
《思いがけなく》 1884-1888年(C)The State Tretyakov Gallery
皇帝アレクサンドル2世の暗殺事件を彷彿とさせる題材で、《思いがけなく》帰って来た男はその犯行仲間か逃走犯か。
男の表情からは、長年の疲れと戸惑いが見て取れる。
椅子から立ち上がる女性は母親であろうか。
子供たちの表情からは、長い間会っていなかった距離を感じるなど、見る人の想像力を書き立せる。
背景に飾られている絵は、右手に棺に横たわる皇帝アレクサンドル2世。
左手には受難者としての象徴としてステューベンの複製版画作品《ゴルゴダで》。
その両脇には人民の意志派の詩人シェフチェンコとネクラーソフの肖像画が描かれている。
レーピンが主人公の男の模索した習作が並べて展示してあり、レーピンの模索がよくわかる。
レーピンはその他に、ロシア史に取材した《皇女ソフィヤ》や《イワン雷帝》などの歴史画、トルストイやムソルグスキーら同時代人の肖像画など、様々なジャンルで傑作を生み出している。
《皇女ソフィヤ》 1879年(C)The State Tretyakov Gallery
《1581年11月16日のイワン雷帝とその息子イワン》 1883年、1899年(C)The State Tretyakov Gallery
えーこら! えーこら! もひとつ えーこら! の歌詞でおなじみのロシア民謡 「ヴォルガの舟歌」を彷彿とさせる「ヴォルガの船曳き」の習作3点が展示されている。
構図を変えたバリエーションを間近に見ることで作家の試行錯誤がよくわかる。
《ヴォルガの船曳き》習作 1870年
印象派の影響を表わす作品として、《あぜ道にて》があげられる。
この絵の構図が簡潔で自然だ。
レーピンの妻、二人の娘と後方女性に抱かれた息子ユーリーが描かれており、田園の幸せな暮らしが生き生きと描かれている。
澄んだ空気感を見事に醸し出しており、外光が穏やかだ。
《少年ユーリー・レーピンの肖像》は、画家の5歳の長男を描いたもの。
つぶらな瞳の少年を丁寧に描いたこの作品からは、レーピンの父としても愛情があふれる珠玉の作品。一服の清涼剤のようだ。
《少年ユーリー・レーピンの肖像》 1882年(C)The State Tretyakov Gallery
《休息-妻ヴェーラ・レーピナの肖像》 1882 年(C)The State Tretyakov Gallery
この展覧会の特徴として、レーピンの主だった作品とその習作も含めて国立トレチャコフ美術館からそっくり借りて来られたため、作家の全貌と作品形成の過程を見ることができることがすばらしい。
《トルコのスルタンに手紙を書くザポロージャのコサック》習作 1880年(C)The State Tretyakov Gallery
本展はロシア絵画の殿堂であり、世界最大のレーピンのコレクションを所有する、モスクワのトレチャコフ美術館の所蔵品から、様々なジャンルにおける油彩と素描、合わせて約80点を紹介する、日本で初めての大規模なレーピンの回顧展だ。
この他にも取り上げたい秀作はたくさんある。
紙面の都合上、ご紹介できないのが残念なくらいだ。
ロシアに行くには、ビザが必要で、行動もスケジュール通りでしか許可されず変更が利きにくいなど渡航は困難だ。
パリに行くのとはわけが違うのだ。
これらの絵画を見たくてもなかなか行けないことを考えたら、この展覧会の開催は美術界としても喜ばしい限りだ。
ぜひ、お見逃しなく。
会期:2013(平成25)年4月6日(土)~5月26日(日)
休館日:月曜日
開館時間:午前9時30分~午後5時(入館は4時30分まで)
主催:神奈川県立近代美術館
後援:ロシア連邦外務省、ロシア連邦文化省、ロシア連邦文化協力庁、在日ロシア連邦大使館、ロシア文化フェスティバル組織委員会
協力:日本航空
企画協力:アートインプレッション
*本展覧会は文化庁の美術品補償制度の適用を受けています。
観覧料
一般 1100円(団体1000円)
20歳未満・学生 950円(団体850円)
65歳以上 550円
高校生 100円•
団体料金は20名様以上から適用。•
中学生以下、障がい者手帳をお持ちの方は無料。
☆記念講演会
「イリヤ・レーピンの絵画の特質について」
講師籾山昌夫(神奈川県立近代美術館主任学芸員)
日時5月18日(土曜) 午後2時~4時 会
場神奈川県立近代美術館葉山/講堂 定員70名(当日先着順) 申込不要、無料
☆担当学芸員によるギャラリートーク
日時5月19日(日曜)午後2時~2時30分 申込不要、無料(ただし「レーピン展」観覧券が必要)
☆読者プレゼント 10組20名様にご招待券 プレゼント
あて先 : loewy@jg8.so-net.ne.jp に 件名:展覧会名と会場名 本文:ご住所、お名前 をお書きの上どしどしご応募下さい。 締切:UPした日の午前零時 発送をもって当選と代えさせていただきます。
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