陶芸の魅力×アートのドキドキ The Magic of Ceramics ~Artistic Inspiration [美術館 ARTNEWS アートニューズ]
陶芸の魅力×アートのドキドキ
The Magic of Ceramics ~Artistic Inspiration
アートと陶芸のはざまで制作をする芸術家や常に粘土を素材とする陶芸家たちの作品約80点を展示した展覧会が、滋賀県立陶芸の森で開催中である。
舟越 桂「天使習作」1980年代 作家蔵
陶芸の歴史の中で活躍したのは陶芸家だけではない。
土の魅力に魅せられて、彫刻家や画家たちも陶芸に挑戦した。
例えば、ジョアン・ミロやパブロ・ピカソらによる陶芸作品は、戦後の陶芸に刺激を与え、1950年代に世界各地で開花する造形的な新しい陶芸を後押しした。
彼らのアプローチは、それまでの伝統や技法にとらわれていた陶芸の発想を越えて、新しい陶芸の可能性を開いた。
思いどおりに変化する可塑性や自然との交感を感じさせる粘土は、さまざまな芸術家たちを魅了し、アートとの距離を近づけ、陶芸のもつ領域はよりいっそう広がった。
滋賀県立陶芸の森は、陶芸家だけでなく画家や彫刻家らによる陶芸制作の舞台としても活動して来た。
そして今、陶芸を専門としない画家やFRP(繊維強化プラスチック)を素材とする彫刻家ら、さまざまなアーティストたちが、粘土という素材を選び始めている。
陶芸は、今までとは違った発展を遂げようとしている。
予想できない出来上がりのため、素材選びや技術の難解さを越えて、あえて陶芸に身を委ねようとするアーティストたち。
何が彼らを陶芸に駆り立てるのか―。
予想ができないからこそ、その偶然性が爆発的に芸術を創り出す。
この展覧会では、画家や彫刻家らが陶芸に挑戦した作品のほか、アートに関連しながら成熟してきた現代の陶芸の一断面を、日本やアメリカ、ヨーロッパなどの陶芸シーンから紹介している。
☆画家・彫刻家たちの陶芸への挑戦
1.世界の陶芸に刺激を与えた画家たち
ジョアン・ミロ(スペイン)、パブロ・ピカソ(スペイン)
1940年代には、陶芸家の支援を受けながらジョアン・ミロとパブロ・ピカソが陶芸制作を始める。
ピカソやミロの陶芸は、陶芸の伝統や発想を越えて新しい陶芸の可能性に気付かせた。
彼らの取り組みは、戦後の世界の現代陶芸の展開に大いなる刺激を与えた。
2.アーティストらのやきもの
岡本 太郎、井田 照一、横尾 忠則、元永 定正、舟越 桂、福岡 道雄
北辻 良央、小清水 漸(すすむ)、木田 安彦、井田 彪(あきら)、日比野 克彦
岡本太郎「坐ることを拒否する椅子」1990年頃 甲賀市信楽伝統産業会館蔵
岡本太郎は、1950年代初頭にモザイクタイルや陶板陶壁の制作を始め、造形的な陶芸作品も手掛けた。
岡本の代表的な仕事のひとつとしては、1970年の大阪万国博覧会のシンボルとなった太陽の塔の背面の"黒い太陽"がある。
これは、1960年代後半に信楽の陶器会社で制作されたのだ。
その後高度経済成長の中、建築ラッシュとともに大型の壁面陶板がさまざまな場所に設置されるようになる。
1980年代には横尾忠則や元永定正が、信楽にある大塚オーミ陶業株式会社で陶板作品の制作を行っている。
横尾忠則「1960s」1985年制作 大塚オーミ陶業株式会社
そのほか、日本を代表する画家や彫刻家たちが、陶芸の素材の土を感じながら、さまざまなアプローチで陶芸に挑戦した作家の仕事を紹介する。
井田 照一については、以下のホームページで述べているので参照のこと。
http://artnews.blog.so-net.ne.jp/2012-06-11
http://artnews.blog.so-net.ne.jp/2012-06-14
木田 安彦についての記事はこちら。
http://artnews.blog.so-net.ne.jp/2010-10-13
3.新しい表現世界を土に求めて~近年のアーティストたちの動きから
レイコ・イケムラ(ドイツ)、奈良 美智、小出(こいで) ナオキ、高橋 治希
1980年代から陶芸を経験していたイケムラ レイコ以外の、奈良美智、小出ナオキ、高橋治希らは、近年陶芸作品を制作してきたアーティストたちである。
近年、土の技術的な難しさを越えて、他の素材とは違う独特の制作過程や土の自然の摂理など陶芸のもつさまざまな魅力に気付いた、土を彫刻の素材とする作家たちが多く登場している。
4.陶芸の愉しみを散りばめた空間をつくる・・・野点パフォーマンス
きむら としろう じんじん
茶碗の"絵付け"や屋外で茶を愉しむ空間"野点"という陶芸の"愉しみ"を凝縮させ、きむら としろう じんじんは、全国各地のさまざまな日常空間を舞台に繰り広げている。陶芸と野点とパフォーマンスといった3つのキーワードを横断させる、きむらの陶芸の野点空間は、人と人とのコミュニケーションの舞台ともなっている。
(展示の中では、これまでの野点を写真・スライドで振り返る。)
5.アートとともに展開したアメリカ陶芸
ピーター・ヴォーコス、ロバート・アーネソン、ジョン・メイスン、ケネス・プライス、ロン・ネイグル、マリリン・レヴィン、リチャード・ショー、金子 潤(じゅん)、エイドリアン・サックス
ロクロの名手といわれたピーター・ヴォーコスが、1953年に抽象表現主義というアートの動きを知る。
それをきっかけに、土に向かうヴォーコスの仕事は大きく変化し、またアメリカの作家たちに影響を与えた。
ヴォーコスらによる造形的な陶芸への展開は、粘土を工芸素材から彫刻素材へ昇格させようとした一連の動きとして、"セラミック・スカルプチュア"と呼ばれる。
まさにアメリカの戦後の陶芸は、陶芸の伝統にこだわることなく時代のアートと歩調を合わせながら展開してきた。
6.ヨーロッパの陶芸に息づくアート
カルロ・ザウリ(イタリア)、ギリアン・ローンデス(イギリス)、グレイソン・ペリー(イギリス)
ダニエル・ポントロー(フランス)、キム・シーモンソン(フィンランド)
クリスティーナ・リスカ(フィンランド)、エンリケ・メストレ(スペイン)
グレイソン・ペリー「PR」1992年制作 滋賀県立陶芸の森陶芸館蔵
ヨーロッパのアンフォルメルのコブラ派の画家やルーチョ・フォンタナたちが、1954年イタリアで陶芸の実験プロジェクトを行い、新しい制作素材としての探求を行っている。
1950年代にはイタリア現代陶芸の巨匠カルロ・ザウリが、ピカソやミロの陶芸とともにルーチョ・フォンタナやコブラ派などの陶芸の造形的な展開に刺激を受けている。
その後のヨーロッパの陶芸では、ゆるやかにアートと合流しながらさまざまな作家たちが、土の造形素材としての可能性を広げている。
7.日本の陶芸のアート発想
八木 一夫、鯉江 良二、西村 陽平、三島 喜美代、秋山 陽(よう)
日本の戦後の陶芸が、時代を切り開いてきたアートの分野に刺激を受けながら独自の展開をみせてきたのは他の国々と同様であった。
しかし、大きく違っていたのは、日本の陶芸の伝統や技術が成熟していたことから、日本の陶芸が背負っていた伝統や技術といった固定的な観念を解放するところから始まった点である。
日本の代表作家たちの、自らを表現する素材として成熟していった作品の数々を展示。
滋賀県立陶芸の森が企画した展覧会だけあって図録は、滋賀県立陶芸の森の三浦弘子学芸員が、わかりやすく解説してくれており、なるほどなるほどと共感できる内容だ。
いかに多くの画家が陶芸作品を残しているか。
例えば、印象派の巨匠ルノアールが磁器の絵付師をしていた。
その作品を筆者は、パリのモンマルトル美術館の主任学芸員に見せていただき、説明を受けたことがある。
画家と陶芸との関わり合いには、気づいていたが、このようなまとまった形で提示できるとは思ってもいなかった。
この図録は、後年、陶芸美術の教科書として引き継いで行かれることになろう。
大変うまくまとまっている有意義な展覧会である。
会期終了まであとわずか。お見逃しなく。
主催
滋賀県立陶芸の森/京都新聞社
後援
滋賀県教育委員会、甲賀市、NHK大津放送局
協力
大塚オーミ陶業株式会社
会期
平成24年3月3日(土)~平成24年7月6日(金)
(月曜休館,4/30は、開館)
観覧料
一 般:600円(480円)
高大生:450円(360円)
小中生 無料
*( )内は20名以上の団体料金
☆読者プレゼント
10組20名様にご招待券 プレゼント
あて先 : loewy@jg8.so-net.ne.jp に
件名:展覧会名と会場名
本文:ご住所、お名前
をお書きの上どしどしご応募下さい。
発送をもって当選と代えさせていただきます。
巡回スケジュール
平成25年5月25日(土)~平成25年8月25日(日)
岐阜県現代陶芸美術館
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